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2008/08/21  発信者:

横浜みなとみらいに巨大幽霊船が出現!


〜フライング・ダッチマン・プロジェクト ’08 〜


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「引き返せ」という神の申告を無視し、喜望峰付近で遭難したオランダ船「フライング・ダッチマン号」は、神の罰を受けオランダ人船長一人を残して幽霊船となり、いまだに海をさまよい続けているという説話がある。このオランダ人船長には唯一救われる道があり、それは7年に一度陸に上がったとき、彼に永遠の愛を捧げる女性と出会えれば救われるというものだ。このロマンティックな説話は、多くのアーティストのインスピレーションをかき立ててきたが、詩人ハインリッヒ・ハイネの「さまよえるオランダ人」にワグナーが着想を得たオペラがなかでも有名だ。
 この秋、気鋭のアーティスト、フロリアン・クラール氏により、横浜みなとみらいにインストールされる「フライング・ダッチマン・プロジェクト’08」について、藤沢のアトリエにインタビューに行ってきた。

 まず、アーティストとして日本に住み活動しているのはなぜかを質問した。日本で最初に仕事を始めたし、日本が好きだからここを拠点に仕事をしている。特に日本の文化にこだわっているわけではなく、自分は無国籍人なのだと。タルコフスキー監督の「惑星ソラリス」の冒頭部分、首都高を疾走するシーンから連想される東京の無国籍性が、彼の中には日本のイメージとして強くあるようだ。ヨーロッパには新しいパブリックアートへのスペースがあまり無いのに対して、東京(日本)には多くのパブリックアートのプロジェクトのチャンスがある。
 次に、「フライング・ダッチマン・プロジェクト」のコンセプトについて質問した。そもそも、彼自身が国を離れた無国籍人であり、フライング・ダッチマンなのだと。物語のイメージを具現化するのではなく、物語のエッセンスとして作品を作ることで、見る人がこの物語を知っていても、知らなくても何かを感じられる、何かコミュニケートできるような作品にしたいと考えている。フライング・ダッチマンのストーリーに興味があるのではなく、フライング・ダッチマンのおかれている状況、すなわち、死んでいるわけでなく、死ねないし、かと云って生きているわけでもない、この様な状況に興味がある。この作品は、人間の体(生物)が生きていることにも通じている。生物の骨格のようでもあり、また船の骨格のようでもあり、そして常に制作中でインコンプリートな状況にあり、これが作品を生き生きとさせているのだ。見てすぐ分かるのではなく、何が起きているのか、何になるのかを考えさせるのが彼の作品である。
 もうひとつの彼の興味は、この船(ベッセル)が動ける(モバイル)という点である。ベッセルには船という意味のほか、魂の入れ物という意味もある。このベッセルはいろんなところに移動し出現し、いつも制作中で終わりが無い。今回、横浜で行う「フライング・ダッチマン・プロジェクト ’08」は、この船の出港である。今回のプロジェクトは完全な形で終わることは出来ないだろうが、今後、日本のどこか別の場所、あるいは世界中のどこかに移動して、形を変化させながらこの連作は継続してゆくことになる。
 また、突然現前したものということが、この作品のもうひとつの重要なテーマとなっている。たとえばキューブリック監督の「2001年宇宙の旅」のモノリスのように、違う次元の、違う空気のものが突然目の前に現れたようなものを作りたいと考えている。
 モバイル性を持ったベッセルにフライング・ダッチマンのエッセンスを取り入れて料理したのがこの作品であり、自分のオリジナリティー、無国籍性にもつながる。云って見れば、作家のバイオグラフィーのストーリーとフライング・ダッチマンのストーリーとの接点に生まれたような作品とも言えるだろう。

 本来ならこれだけのプロジェクトには半年以上の準備が必要であるが、今回は、様々な事情からスタートが今年の5月に決まり、準備期間が3ヶ月しかないエマージェンシーな状況で作業が進行している。9月1日〜11日:現地公開制作、9月12日〜15日:展示(夜間ライトアップ)の予定です。


フロリアン・クラール(Florian Claar)略歴:
1968 ドイツ、シュトウットガルト生まれ
1992-93 ナショナルアートユニヴァーシィー・シュトウットガルト大学院彫刻科終了
2001 武蔵野美術大学彫刻科非常勤講師
2002 カリフォルニア州立大学ロングビーチ校メディアアート科/彫刻科助教授
現在、神奈川県在住


取材、翻訳:岩田稔夫、島田精治、関野雄太
文:岩田稔夫